厚生労働省の調査※で育児休業取得者の割合は、女性が82.2%、男性は6.16%と男女間で数値に大きな開きがあります。また、育休を取得した男性の取得日数は「5日未満」が最も多く、育児休業取得者の約8割が1カ月未満の取得にとどまっており、育児の負担が主に女性に偏っていることが伺えます。
育児休業制度を取得した男性社員を紹介する企画の第二回目は、第一子の誕生にあたり1カ月の育児休業を取得した社員のインタビューとともに、育休は取得しなかったものの家事・育児を精力的に担っている男性社員たちの対談を通じて、育休取得にとどまらず夫婦で家事・育児負担の分散を実現しているケースを紹介します。
※出典:平成30年度雇用均等基本調査(速報版)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05049.html
Profile
育休取得者:大西浩二
2011年に中途入社。『music.jp』のシステムやフィンテック関連の開発を担い、現在はスマートコンテンツ事業部にてヘルスケア関連の開発を中心に担当。
約1年半の不妊治療を経て2019年3月に待望の第一子の女児が生まれ、1カ月の育休を取得。
生まれた後の生活をイメージして育休取得期間は1カ月に
育休取得を検討した時期と、取得期間の決め方について教えてください
妻の妊娠がわかってから育休の取得を検討しはじめました。当初、どれくらいの期間取れば良いのか見当がつかなかったのですが、出産後の生活を妻とイメージしながら取得期間を考えていました。
また、夜に子どもが寝てくれず、睡眠時間が確保できないことを考えると不安がありました。その状況で私が仕事に行き、妻がワンオペで家事・育児をするのは、精神的にも体力的にも難しいだろうと夫婦で共通の認識を持っていたので「どれくらいの月齢からまとまった時間寝てくれるか」を調べました。2カ月頃から子どもが寝る時間が長くなってくる場合が多いと分かったので、取得期間は1カ月検診の頃までと決めました。
育休期間は状況に応じて延長ができると聞いていたので、1カ月取ってみて、復帰が難しければ延長を検討したいと事前にチームメンバーにも共有していました。
育休取得はいつ頃打診しましたか?
出産予定日の3カ月~4カ月前に上長に打診しました。
私たち夫婦は不妊治療をしており、治療のためにお休みすることがありました。何度も休むと「体調不良なのか?」とチームメンバーに心配をかけてしまうと思い、治療のために休んでいることは伝えていました。
そのため、安定期に入ってすぐにチームメンバーには妻が妊娠中であること伝えました。
“不安は全くなし!” チームの強力なサポートに感謝
育休取得にあたり、不安に思うことはありましたか?
私自身、不安は全くと言っていいほどありませんでした。
育休を取得したいと上長に申し出た際はとても応援してくれ、数カ月前から業務の負荷を調整してくれました。そのおかげで、育休に入る約1カ月前には引継ぎが発生するような業務はほぼ手元にない状態だったのです。
またチームのメンバー全員から「育休取った方が良いよ!」と後押しされ、国内外への出張もすべて引き受けてくれるほど強力にサポートしてくれました。おかげさまで、出産間近の妻をサポートすることもできました。
しかし、妻は「生まれてくる子どもをうまく育てていけるのか?」という漠然とした不安があったようです。育休取得するにあたり、妻には「不安に思うことはお互いにきちんと話をしよう」と伝えました。
不安や要望は、きちんと相手に伝えて都度対応していこうと夫婦で決めて育休をスタートさせたので、育休取得前よりも子どもが生まれてからの方が良く話し合うようになりましたね。
チームメンバーから受けて嬉しかった言葉やサポートはありますか?
育休中に、チームからサプライズでプレゼントが届き、とても嬉しかったです。私の育休中の様子や、プレゼントされたよだれかけを着けた子どもの写真をメールで送るなど、休暇中もコミュニケーションを取っていたので、復帰後の不安もありませんでした。
チーム全体として育休取得をサポートしてもらえる風土があり、大変ありがたかったです。
夫婦独自の育児タイムスケジュール「早番」「夜勤」制が誕生!
育休中はどのように過ごしていましたか?
育休中に「早番」と「夜勤」のサイクルが生まれ、2つタイムスケジュールができました。笑
「早番」の人は夜8時に寝て、朝3時に起き、起きて子どものお世話をしていた「夜勤」の人とバトンタッチします。「夜勤」の人は朝3時から9時頃まで寝ます。
・「早番」の日のスケジュール
AM3:00 起床 ミルクを飲ませる
寝かしつけ
AM6:00 ミルクを飲ませる
寝かしつけ
AM8:30~
朝ご飯をつくる 妻が起きてくる
AM9:00
夫婦で朝ご飯を食べる ミルクを飲ませる
家事全般をこなす
PM12:00
お昼ご飯をつくり、夫婦で食べる
PM12:00~PM3:00
家事 買い物
PM4:00
沐浴
夕食の準備
PM6:00
夕食
夫婦交代でお風呂に入る
PM8:00~AM3:00
就寝
「早番」「夜勤」のタイムスケジュールはどのように決まっていったのでしょうか?
話し合いなどはとくにせず、家事・育児をやっていくなかで自然と「早番」と「夜勤」のタイムスケジュールが作られていきました。
妻が、子どものミルク、睡眠、排せつ、お風呂などを記録したいというのでアプリでの管理を取り入れており、記録することでミルクを飲む時間や、寝るタイミングが徐々につかめてきた結果、自然とサイクルが決まりました。
「早番」「夜勤」の交代をするときには記録したデータを見ながら引継ぎをしていましたよ!笑 データをもとに、次のミルクの時間や子どもの体調にも注意を向けられました。
また、そうしているうちに、当初の見通し通り1カ月を過ぎたあたりからまとまった時間寝てくれるようになっていることに気が付きました。そのような変化を知ることができたのも記録を取っていて良かったことの一つです。
奥様と協力しスムーズに家事・育児をされていたようですが、秘訣を教えてください。
育休に入るにあたり話し合っていた「不満や不安を伝える」ことをお互いに意識して実行していたのが良かったと思います。不満や不安を隠したまま溜め込むのではなく伝えることで、これからどうするべきか?と前向きに話ができました。
奥様と家事・育児をどのように分担していたのでしょうか?
育休に入る前には育休中の家事・育児の分担を決めていませんでしたが、育休に入ってすぐ妻から「家事全般を担当してほしい」と要望があり、お互いの役割が決まりました。妻にこだわりがある家事を除き、ほぼすべての家事を私が担当していました。
妻は出産後の身体へのダメージが大きかったことから、産後すぐは身体の不調を訴えていたので、自分が家事を担当し、妻には娘を見る役割を担ってもらいました。
育休前まではほとんど家事に参加できておらず、家事の内容やその方法もわからなかったので、妻にやり方を書いてもらった付箋を壁に貼り付け、タスク管理の要領で家事を行っていました。慣れてくると、なるべく時短でできるよう考えて実行していました。
一番大変だった「料理」は“ある意味ソフトウェア開発”!?
育休を取ってみて意識が変わったことはありますか?
育休を経験して、意識はかなり変わりましたね。改めて家事を担当してみると「こんなにやることがあったのか!」と驚きました。
その中でも「料理」がとても辛く、料理を作ることはある意味ソフトウェア開発のようだなと感じました。
自分の持っているスキルや知識と、冷蔵庫内のリソース(材料)、スーパーからのお惣菜などの外注品…すべて組み合わせて献立を考えて、さらに成果物である料理の品質をどう上げていくのか考える。
料理を1品作るのであれば比較的簡単にできると思いますが、すべてを考慮して食事の献立を考えるのはとても大変でした。この大変さに気づいた時、いつもたくさんの料理を作ってくれていた妻への感謝はひとしおでした。笑
また、料理は苦手ですが、育児でなかなか外出できない妻が少しでも気分転換でき、喜んでくれたら…という思いで初めてお菓子作りにも挑戦し、チーズケーキを作りました。育休から復帰した今も継続して朝ご飯は私が作るようになったのですが、育休前では考えられませんでした。今日も作ってきましたよ!
写真:育休中に作ったチーズケーキ
仕事に復帰した今、育休を振り返ってどんな思いがありますか?
育休を取って本当に良かったですし、他の人にも強くお勧めしたいです。
今は、朝の子どもが起きているときくらいしか娘の成長を見られるときがありません。「首が座った」「おしゃぶりができるようになった」など成長をその場で見ることができないのが寂しくて…。育休中は毎日娘の成長を妻と一緒に共有できたのがとても良かったです。
また、育休を取ったからこそ妻と同じタイミングで育児のスタートラインに立ち、娘のお世話は不安なくできるようになりました。そのおかげで、今は娘と二人きりでのお出かけもできますし、妻が一人で出かける際にも自信をもって「いってらっしゃい」と送り出せます。
もし妻主導で育児が進み、何もかも聞かないとわからない状態になっていたら、妻にも信用されなくなってしまうと思います。そういう意味でも育休を取って良かったと思っています。
育休期間は1カ月でいいだろうと思っていましたが実際に1カ月で復帰してみると、復帰後しばらくは妻が辛そうでした。その姿を見ると、1カ月は短かったかな…と思います。もし次に育休を取るタイミングがあれば絶対に3カ月取ろう!と考えています。
現在、子どもは5カ月目ですが、よく寝てくれているので私も妻も夜はぐっすり眠れています。夫婦で密かに「よく寝る子に育ってほしい」と目標を持っていたのですが、無事に達成できました。笑
「育休」以外で積極的に家事・育児を行うパパ社員
父親側が育休を取ることで母親の負担を減らすことができますが、一方で育休から復帰した後に仕事をしながら家事・育児まで行うことに難しさを感じる男性も多いのではないでしょうか。
育休を取得した大西と、育休は取っていないものの家事・育児を積極的に行って家庭を支える2名の男性社員で、「育休」だけにとどまらない家庭への貢献方法について座談会形式で話し合ってもらいました。
Profile
育休取得者:大西浩二(写真:左)
5カ月の女児の父。妻の出産直後から1カ月間の育休を取得。
育休未取得者:川上貴士(写真:中央)
5歳と1歳の男児の父。出産前後に1週間程度の有給を取得。
育休未取得者:竹内浩晃(写真:右)
2歳の女児の父。退院後のタイミングで1週間程度の有給を取得。
家事・育児の理想を高く設定しすぎないのがポイント
川上さん、竹内さんのご家庭の状況や家事・育児をどのように行っているか教えてください
竹内:2歳の娘がおり、妻もフルタイムで働いています。私も妻も出身が関西方面のため両親からのサポートを日常的に受けるのは難しい状況です。家事・育児はおよそ5:5で行うようにしています。
川上:5歳と1歳の男の子がおり、妻は専業主婦です。家事・育児は担当を決めずに出来る方が行うという方法で進めています。家庭がうまく回っているのは、夫婦ともに家事に求めるレベルが高くなく、できる範囲で行っているからだと思います。
竹内・大西:うちも同じです!
川上:ある意味「手抜き」や「諦める」ということも重要なのかもしれません。笑 とはいえ、土日の朝・夜など自分が家にいられる時はほとんどの時間を家事・育児に費やしています。自分ができる時には半々以上の家事・育児を担おうという意識でやっています。
大西・竹内:おぉ~すごい…!!
竹内:私の場合、産休中は妻がほとんど家事をしてくれていましたが、妻が育休から仕事に復帰した頃から段々と積極的に行うようになっていきました。どちらかが家事をしなければ家庭が立ち行かないですし、一方が子どもを見ている間にもう一方の人が家事を行うようにしています。また、妻が仕事で遅くなる日は、私がフレックスタイム制※を使って早めに保育園にお迎えに行くなど、夫婦で連携して仕事と家庭生活を乗り切っています。
※予め定められた1カ月の総労働時間の枠内で各日の始業及び終業時刻を柔軟に調整できる制度
大西:すごいですね!私は育休から復帰した後は思うように家事・育児ができていないです…。
竹内:妻が育休の期間中もできる限り早めに帰宅するようにして、お風呂に入れるのは私も積極的に担当していました。お風呂に入れる時が唯一子どもと二人の時間だったので、大切にしたいなと思っていました。
大西:同感です!私も子どものお風呂はほぼ毎日担当していて、楽しみな時間です。
竹内:はじめは仕事で会えない時間を寂しく感じていたのですが、最近は娘が保育園で覚えてきた言葉を話してくれたりして、日々新しい発見があり楽しいです。
川上:うちは昨年次男が生まれたのですが1年ほど夜泣きがありました。夜泣き対策として妻と毎晩交互に次男の世話を担当するようにして乗り切りました。
竹内:寝室を分けて寝ていたということですか?
川上:はい。寝室を分けて、妻も朝までぐっすり眠れる日を作るようにしていましたよ。フルタイムで仕事をしながら夜通しの育児はかなり大変でしたが、頑張りました。
家事負担の軽減を重視した住まい選び
みなさん適度に肩の力を抜いて家事・育児を乗り切っているとのことですが、どのように工夫していますか?
川上:例えば洗濯物は畳まず、丸めて服用の入れ物にダンクシュート!でしまって、靴下などは使う時に揃えるようにしています。スーツではなく普段着で仕事をしているので、アイロンがけも不要で、もはや干してある服をハンガーから直接取って着ることもあります。
大西:実はうちも家事の中で夫婦ともに洗濯物を畳むのが嫌いでした。転居のタイミングで夫婦それぞれにウォークインクローゼットが持てる間取りの家を選び、干したものをそのままクローゼットにしまえるようにして嫌いな家事をやらずに済むようにしました。
竹内:うちはドラム式洗濯乾燥機を導入して、時短を図っています。さらに洗濯物を干す作業は量が多いと手間がかかるし、運ぶのが重いということを考慮して、家を建てる際に浴室を広めにして浴室乾燥機を付け、近くに洗濯機の置き場を作るなど負担軽減を実現するための間取りを考えました。
川上:育児に関して、うちは二人目で要領も掴めてきていたというのもあり、いい意味で「手抜き」ができるようになりました。
子どもは1人1人違うので、世間一般の「育児マニュアル」的なものに当てはめようとしてもうまくいかないこともありました。例えば“粉ミルクの正しい作り方”や“夜はこれくらい寝る”等、育児マニュアルに合わせようとしても合わないことがあります。そういう時、お母さんはマニュアル通りにいかない、できないことで自分を責めて精神的に追い詰められてしまうこともあります。
妻も、子育てがマニュアル通りにいかないことに悩んでいた時期があったのですが、夫婦で話し合って「手抜き」を許容していこうという方針になりました。
大西:川上さんも竹内さんも家事・育児に積極的ですが、育休を取らなかったのはなぜですか?
竹内:出産後1カ月ほどは妻の母がサポートしてくれる予定だったので育休取得は考えていませんでした。育休という形ではありませんが、妻の退院直後に1週間ほど休みを取りました。やはり出産後は妻の体調が不安定ですし、サポートする必要がありました。
川上:うちも私の母がサポートに来てくれることになっていたので、一人目の時も二人目の時も出産前後に1週間程度休みを取った後は、母に任せようと思いました。
そもそも数カ月単位の期間育休が取れるということを認識していなかったのも理由の一つです。
大西:たしかに認識していないというのはありますね…。私も育休が取れるのか?ということから人事に聞きました!申請のフォーマットも男女兼用なのですが、記入内容がどちらかといえば女性向けで戸惑いました。
仕事と家庭を両立するために必要なこととは?
男性がもっと育休を取りやすくなるために必要なことは何でしょう?
川上:実際に育休を取った人が「どんな障壁を感じたのか」という点がわかるといいですね。
大西:障壁か…私の場合、障壁らしい障壁はなかったのですが、どうやって育休を取ればいいのかフローを知らなかったので、情報を探すことから始めました。また、取った後に給与面はどうなるかなどの情報も欲しかったです。育休中は会社ではなく会社が加入する健保から給付金が支払われるなど、複雑でわかりにくかったので育休を取る前と後のわかりやすいフローがあると良いです。
竹内:私も育休に関する資料を見たのですが、書いてあることが難しくてわかりにくかったです。
川上:普段使わない制度の話となると、難しい言葉を使っていたり、イメージしにくいというのもあり、資料の解読自体が難しいですよね。笑 手っ取り早く制度を使ったことのある人に聞きたくなります。
大西:私も育休取得前は、先に取っていた男性社員に色々と聞きました。制度を使う時に、利用経験がある人を紹介してもらえると嬉しいです。
川上:本当は育休を取りたかったのに取れなかった、という人は実際どれくらいいるのでしょうね…?育休を「取らない人」と「取れない人」ではそれぞれ課題が違いますよね。
「取れない人」の中には、業務の調整がつかない人や健保からの給付金が給与の約7割になってしまうことで金銭的に難しい人もいると思います。取れない理由を要素分解してみると、育休取得にあたっての課題がわかりやすいのではないでしょうか。
大西:今後もっと育休を取りやすくするためにも現状・課題の可視化ができるといいですね。
竹内:エムティーアイは会社として子育てに理解があり、同僚も理解があって働きやすいです。育休に限らず、どのような選択肢があるのかわかると良いと思います。
大西:確かに選択肢を知らないとその制度を使うに至らないですよね。
川上:各家庭で状況も目指すゴールも違うと思います。まずは会社が用意している制度の選択肢を知り、それらを使って何を実現できるか個々人が考えることが仕事と家庭を両立していくために重要な第一歩なのではないでしょうか。