バストサイズや月経痛など女性特有の体質と関連の強い遺伝子領域を新たに発見!


東京大学医学部附属病院
株式会社スタージェン
株式会社エムティーアイ
株式会社エバージーン

1.発表者:
平田哲也     (東京大学医学部附属病院 女性外科 講師)
甲賀かをり    (東京大学大学院医学系研究科 産婦人科学講座 准教授)
Todd A. Johnson (株式会社スタージェン データサイエンティスト)
鎌谷直之     (株式会社スタージェン 代表取締役会長)
大須賀穣    (東京大学大学院医学系研究科 産婦人科学講座 教授)2.発表のポイント:
 11,348人の遺伝子情報と22の女性特異的体質に関するWEBアンケートの結果を用いて、網羅的遺伝子解析を行い、以下のようなバストサイズや月経痛など女性特有の体質と関連の強い遺伝子領域をそれぞれ発見しました。
(1)バストサイズが大きい傾向の人と小さい傾向の人とで異なる遺伝型の組み合わせが、6番染色体のCCDC170、8番染色体のKCNU1/ZNF703と呼ばれる遺伝子領域に存在することが明らかになりました。
(2)月経痛の重い傾向の人と軽い傾向の人とで異なる遺伝型の組み合わせが、1番染色体のNGFおよび2番染色体のIL1Aと呼ばれる遺伝子領域に存在することが明らかになりました。
(3)アンケートで月経中にある症状として「発熱」を選んだ人において、6番染色体のOPRM1と呼ばれる遺伝子領域に特徴的な遺伝型の組み合わせが存在することが明らかになりました。
(4)上記の各領域における遺伝子多型が、表現型に関連する組織における遺伝子発現の制御に関与することも同定しました。3.発表概要:
 東京大学大学院医学系研究科産婦人科学講座 大須賀穣教授ら、株式会社スタージェン 鎌谷直之らのグループは、株式会社エムティーアイの子会社である株式会社エバージーンの遺伝子解析サービスのプラットフォームを利用し、エムティーアイが運営する『ルナルナ』ユーザーの女性ボランティアの協力により得た11,348人の遺伝情報を用い、22の女性特異的な体質に関して、大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS、注1)を行いました。
 11,348人、約54万SNP(注2)の遺伝子情報と体質に関するWEBアンケートの結果を用いて、GWASを行い、バストサイズや月経痛など女性特有の体質と関連の強い遺伝子領域をそれぞれ発見しました。
 今後は本研究にて得られた結果をもとに、さらなる研究を進め遺伝因子および環境因子の全貌が明らかになることで、個人の体質に合わせた月経中の痛みや発熱などの改善への取り組みが可能となり、また、女性特有の体質とそれに関連する疾患との関係性が明らかになることで、一人ひとりに合った情報やアドバイス、疾患予防法の選択が可能になることが期待されます。
 本研究成果は、日本時間5月31日にScientific Reportsにて発表されました。4.発表内容:
 本研究では、まず、ご協力いただいた女性ボランティアが自宅で採取した唾液より抽出したDNAから約60万SNPの遺伝子情報を読み取り、その中から精度の高い検体およびSNPのみを抽出しました。このようにして得た11,348人、約54万SNPの遺伝子情報と女性ボランティア自身が回答した体質に関するWEBアンケートの結果を用いて、網羅的な解析(GWAS)を行い、バストサイズや月経痛など女性特有の体質と関連の強い遺伝子領域を探索しました。【バストサイズ】
 アンケートでバストのカップ数(AA~Gカップ以上)について質問し、その回答をもとに、バストサイズの傾向を数値化して解析を行ったところ、バストサイズが大きい傾向の人と小さい傾向の人とで異なる遺伝型の組み合わせが、6番染色体のCCDC170、8番染色体のKCNU1/ZNF703と呼ばれる遺伝子領域に存在することが明らかになりました。特にCCDC170は、乳がんの発症リスクとも関連が強いことが過去の研究で報告されており、また、エストロゲン(女性ホルモン)受容体をコードしているESR1という遺伝子と隣接しています。しかしながら、今回、さらに実際の遺伝子発現に与える効果を検討したところ、既報の論文の通り、これらの遺伝子変動がESR1の発現量よりもCCDC170の発現量に関連することが確認されました(図1)。【月経痛】
 月経痛の重い傾向の人と軽い傾向の人とで異なる遺伝型の組み合わせが、1番染色体のNGFおよび2番染色体のIL1Aと呼ばれる遺伝子領域に存在することが明らかになりました。NGFは神経の成長に関わる遺伝子としてよく知られており、過去の研究でも月経困難症における痛みの強さと関連していることが報告されています。また、IL1Aは痛みや炎症を引き起こす炎症性サイトカインと呼ばれるタンパク質をコードし、プロスタグランジン(子宮を収縮させ陣痛を引き起こすホルモンであり、月経痛の主な原因と言われている)の生産を促すことも知られています。更に、IL1Aは子宮内膜症と関連が強いことも過去の研究で報告されています(図2)。【月経中の発熱】
 さらに、アンケートで月経中にある症状として「発熱」を選んだ人においては、6番染色体のOPRM1と呼ばれる遺伝子領域に特徴的な遺伝型の組み合わせが存在することも明らかになりました。この遺伝子は、神経伝達物質の一つであるβ-エンドルフィンの受容体をコードしており、動物実験においてβ-エンドルフィンが体温の調節に関わるという報告があることから、人間においても発熱に関わっている可能性があると考えられます(図3)。 これらの遺伝子多型が、実際の遺伝子の発現に与える量的効果をeQTL(expression quantitative trait loci、注3)と言います。eQTL解析を行うことで、遺伝子多型と「疾患発症や体質」の関連を検討できると考えられています。今回のGWASで得られた成果と最近のGTEx Portal(注4)のデータセットでのeQTLの共局在解析を行うことで、我々の同定したSNPsが、実際にタンパク発現をコードする遺伝子の発現やロングコーディングRNAの発現に関連することが分かりました。 今後は本研究にて得られた結果をもとに、さらなる研究を進め遺伝因子および環境因子の全貌が明らかになることで、個人の体質に合わせた月経中の痛みや発熱などの改善の取り組み、さらには子宮内膜症、乳がんなどの女性特有の疾患と体質の関連について解析し、一人ひとりに合った情報やアドバイスの提供、予防法の選択が可能になることが期待されます。5.発表雑誌:
●雑誌名:「Scientific Reports」(オンライン版:5月31日)
●論文タイトル:Japanese GWAS identifies variants for bust-size, dysmenorrhea, and menstrual fever that are eQTLs for relevant protein-coding or long non-coding RNAs.
●著者:Tetsuya Hirata1,¶, Kaori Koga1,¶, Todd A. Johnson2,¶, Ryoko Morino3, Kazuyuki Nakazono2, Shigeo Kamitsuji2, Masanori Akita3, Maiko Kawajiri3, Azusa Kami3, Yuria Hoshi4, Asami Tada3, Kenichi Ishikawa3, Maaya Hine5, Miki Kobayashi5, Nami Kurume5, Tomoyuki Fujii1, Naoyuki Kamatani2, and Yutaka Osuga1,*
1Obstetrics and Gynecology, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo, Bunkyo-ku, Tokyo, 113-8655, Japan
2StaGen Co., Ltd., Taito-ku, Tokyo, 111-0051, Japan
3EverGene Ltd., Shinjuku-ku, Tokyo, 163-1435, Japan
4Life Science Group, Healthcare Division, Department of Healthcare Business, MTI Ltd., Shinjuku-ku, Tokyo, 163-1435, Japan
5LunaLuna Division, Department of Healthcare Business, MTI Ltd., Shinjuku-ku, Tokyo, 163-1435, Japan
DOI番号:10.1038/s41598-018-25065-9
アブストラクトURL:https://www.nature.com/articles/s41598-018-25065-96.問い合わせ先:
≪研究に関するお問い合わせ≫
東京大学医学部附属病院 女性外科
講師 平田 哲也 (ひらた てつや)
電話:03-5800-8657  E-mail:thira-tky@umin.ac.jp≪広報担当者連絡先≫
東京大学医学部附属病院 パブリック・リレーションセンター (担当:渡部、小岩井)
電話:03-5800-9188(直通)  E-mail:pr@adm.h.u-tokyo.ac.jp
株式会社エムティーアイ 広報室
電話:03-5333-6323  FAX:03-3320-0189
E-mail:mtipr@mti.co.jp  URL:http://www.mti.co.jp7.用語解説先:
(注1)GWAS:ゲノムワイド関連解析。全ゲノム上の遺伝子マーカー(SNPなど)を網羅的に調べ、表現型(疾患や体質などの特徴)との関連の強さを解析する統計的手法。
(注2)SNP:単塩基多型。約30億のヒトゲノムの中の1箇所の個人ごとの違い。
(注3)eQTL (expression Quantitative Trait Locus):遺伝子の発現量に影響を与える座位。
(注4)GTEx (Genotype-Tissue Expression):人の組織ごと遺伝型ごとの遺伝子発現を網羅的に調べたプロジェクトで、そのポータルサイトであるGTEx Portalでは、このプロジェクトで解析された遺伝子の発現量や関連するeQTLなどのデータが公開されています。8.添付資料:

図1.各SNPとバストサイズの関連を調べたGWASの結果。グラフの縦軸がP値になっており、グラフの上のほうにプロットされるほどバストサイズとの関連が大きいことになります。この場合、CCDC170とKCNU1の遺伝子領域のSNPがバストサイズと関連が高いことが分かります。
図2. 各SNPと月経痛の関連を調べたGWASの結果。月経痛とNGF、IL1B, IL1Aの遺伝子領域のSNPとの関連が高いことが分かった。
図3.各SNPと月経中の発熱の関連を調べたGWASの結果。月経中の発熱とOPRM1の遺伝子領域のSNPとの関連が高いことが分かった。PDFPDF版はこちらから

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