管理栄養士が考える「痩せる」の一歩先を見据えたサービスづくり


国の医療費削減という大きな目標に向けて、個人の健康管理が不可欠な現代。生活習慣病の大きな原因の一つとされる肥満の解消に向けて、ただ「痩せる」だけのサービスから一歩先へ。行動科学の観点から企画を行う管理栄養士の川端史紀氏に話を聞きました。

Profile
ヘルスケア事業本部
川端史紀

聖徳大学人間栄養学科卒業
管理栄養士免許取得
エムティーアイ入社
BIU入学Human Biology専攻

当社では主に管理栄養士としての知識や行動科学の研究をサービスに活かして、サービス企画を担当する

「痩せる」の一歩先へ。

日本の医療費を削減していくためには、個人の健康が課題となっています。
個人の健康を実現するためには、様々な身体の不調や病気の元凶になっている、メタボリックシンドロームへの対応は不可欠です。
もし一度痩せたとしても、その体型をキープ出来ずにリバウンドしてしまうのであれば、それはむしろ健康状態の悪化につながる可能性があるため、リバウンドすることなく「痩せたまま」にすることが真の減量成果だと考えています。

私は現在、ヘルスデータサイエンスという、データを活用して効果的な健康戦略を探索・構築するチームに在籍しています。具体的には、健康課題解決に導くためのロジック作成や分析を通して、CARADAをはじめとする弊社サービスの質をより良いものにするために、横断的に活動しています。
たとえば、制度改正に向けて盛り上がりを見せている保健事業のサービスでは、「きっかけ作り→継続→習慣化」の3ステップが健康課題となっているため、いわゆる行動変容のための解決策を日々模索しています。

「何をすれば痩せるか?」という問題に対しては、山ほど解があります。
ジムに通ったり、トレーナーや専門家による支援があれば多くの人は痩せます。

でも、どうしたら人が「痩せよう」という意欲を持ったり、痩せるための行動が継続したり、痩せたままでいるための生活を手に入れることができるのか?という問題については、未だ再現性や適応性の確かめられた解はありません。だから面白いのです。
こんなにも面白くて難解な問題にチャレンジしていくために、私は管理栄養士の枠を超え、生活習慣病を「行動」の視点から理解し支援できる、そんな専門家として自分を高めていく他ないと考え、今の取り組みに至っています。

エムティーアイには、指導経験が豊富な管理栄養士がたくさん在籍しており、「何をすれば正しく痩せるのか?」という問題に対する取り組みは十分にできています。
でも、人はどうすれば痩せよう!と行動を起こし、痩せたままでいるための行動を習慣化することが出来るのか?という問題に対する取り組みは不十分です。
なので、今は、「何をすれば痩せるのか?」の一歩先を見て、「どうしたら人々の行動は変わるのか?」という行動変容について研究しています。

行動変容メソッドの翻訳と活用

もともと行動変容のテクニック(BCT)は栄養学の業界でも使われることはあったものの、同じようなメソッドでも表現や分類が違っていて、バラバラに存在していました。

BCTについて調べていく中で、「世の中にはどんなBCTがあるのか、まとめて一元化したい」という思いがありました。
その上で、これまでの取り組みの成功パターンと失敗パターンの特徴を行動科学的視点で明らかにし、行動変容プログラムの体系化を目指したいと考えました。

もう少し調べていくと、2013年頃、ロンドン大学の教授らにより行動変容テクニックの国際的な標準化を目指して作成されたBehavior Change Technique Taxonomy v1(BCTTv1)というものの存在を知り、さらに、なぜBCTTv1がまとめられるに至ったのかという論文を書いている日本人の先生がいらっしゃいました。早速先生とお会いし、行動変容に関してお話を伺うと、ロンドン大学の研究によって一元化されたBCTTv1は、行動科学研究を飛躍的に向上させる革新的なものであったと知りました。

そんな背景から、食生活や身体活動、さらには喫煙行動の行動変容に有効なBCT集を作成しなければ、という思いに駆られ、エムティーアイオリジナルのBCTガイドライン作成に着手しました。情報量はかなりのもので、さらに用語の日本語訳はコンセンサスがとれていないため非常に困難でしたが、昨年末頃このガイドラインの作成が完了し、行動変容の体系化における基盤は整ったと感じています。今後は、選定したBCTの適応の仕方がポイントになるため、ICTを活用して“楽しさ”という演出を介入プログラムにうまく取り入れていきたいと考えています。さらに、再現性および減量目的以外での適応性を見据えたメソッド開発に向けて、検証を繰り返していきたいと考えています。

楽しみながら自然と健康で居られるサービスを目指したい

「太る」ということは、何かしら周りの環境や日々の行動に原因があるはずなのですが、これに気づいていない人は非常に多いです。減量を目的とした痩せるフェーズとは違い、痩せたままでいるためには、「習慣改善」が目的になるため、第一に必要なことは、ユーザーの生活習慣上の問題を行動レベルで明らかにし、問題とすべき行動を具体的に捉えていくことです。

「痩せたまま」でいるための行動(健康行動)というのは、それほど楽しいものではなく(痩せるときのワクワク感とはまた別)、個人に合った知識・意欲・スキルがなければ、続かないものです。知識・意欲・スキルをどのように身につけさせるか、ということにもBCT活用の余地があり、さらにそれを楽しく演出して、ユーザーが知らず知らずのうちに自然と太らない行動を選択してしまうようなプログラムを構築したいと思っています。
最終的には、モチベーションに頼らずとも健康的な生活習慣が身につくサービスを作り上げることが私の目標です。

管理栄養士の私がIT企業で働くことを選んだのは、世界中の人々に発信することができるヘルスケアサービスを作りたかったからです。リアルの支援とうまく連動させながら、“健康”というものにもっと楽しさや面白さを加えることで、多くの人の健康に寄与することが出来るのではないかと考えています。
「IT×管理栄養士」は異色と思われがちですが、サービスを楽しみながら使っているだけで、自然と健康的な生活を送ることが出来るようにサポートすることは、IT関連のサービスだからこそ実現出来る重要な健康支援だと思っています。

まだまだこれから…といった所ではありますが、自分が思い描くようなサービスの実現に向けて研究を進めていくことに日々ワクワクしています。

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